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争族を防ぎ、節税・事業承継も叶える「養子縁組」の効果と、見落としてはならない6つの注意点

2025.12.10

養子縁組は相続対策の中でも、主に遺産分割対策、相続税対策、事業承継対策として活用されます。
実際に相続のご相談を受ける際にも、養子縁組を検討されている方は少なくありません。まず初めに、養子縁組の説明から始めます。

養子縁組とはどんな制度なのか

養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類がありますが、相続対策では主に普通養子縁組を活用するため、ここでは普通養子縁組について解説します。

養子縁組とは、法的に親子関係をつくる制度です。基本的に実の親子関係がない者との間で実施されます。養子を迎えるほうを「養親」、迎えられる方を「養子」と言います。養親は養子よりも年上である必要があり、養子が未成年者の場合に親権者の承諾が必要ではありますが、それ以外の要件はほとんど無いため、比較的簡単な手続きで養子縁組が成立します。

また勘違いされやすいのですが、普通養子縁組では実親との関係は切れずに存続します。つまり養子になった方は、実親と養親と、両方の相続権を有することになります。

 

相続対策としての養子縁組

養子縁組は相続対策の中でも、主に遺産分割対策、相続税対策、事業承継対策として活用されます。順番に見ていきましょう。

 

  • 遺産分割対策としての養子縁組

 財産の後継者である孫、長年連れ添ってくれた子の配偶者、内縁関係の方や再婚相手の連れ子へ財産を渡したい場合など、子縁組は有力な選択肢になります。養親と養子には法的に親子関係が生じるため、養親に相続が発生した場合、養子は法定相続人として相続権を有し、財産を相続させることができます。たとえ養親の遺言書が無かった場合でも、養子は遺産分割協議に参加することができますし、遺留分も行使することができます。相続分を有するだけでなく、親子関係が明確になることで養親と養子との間で精神的な絆が深くなり、より良い相続につながることも期待できます。

 

  • 相続税対策としての養子縁組

養子縁組により養子が法定相続人になることの効果として、以下の枠が増加し、相続税の節税につながります。

 ・相続税の基礎控除(養子1人あたりプラス600万円)

 ・生命保険金、死亡退職金の非課税枠(養子1人あたりプラス500万円)

民法上の養子の数に制限はありませんので何人養子をもらっても構わないのですが、税法上のルールでは、被相続人に実子がいる場合は養子のうち1人まで、実子がいない場合は2人までしか法定相続人の数に含めることができませんので注意が必要です。また養子縁組により法定相続人が増えると、相続税の計算をする上での一人当たりの相続財産が少なくなります。結果として適用される相続税率が低くなり、相続税全体の負担が軽減されることがあります。養子縁組は相続税対策に確実に効果が出るため、節税を目的として検討されている方も多くいらっしゃいます。

 

  • 事業承継対策としての養子縁組

長年続いた家業を継いでほしいが実子がいない、あるいは実子がいても家業を継ぐ意思がない場合に、親族(甥や姪など)や親族外の人物を養子にして、後継者として家名や家業を継いでもらうために活用されます。養子縁組をすることで、自社株や事業用資産などの事業に必要な財産の承継がスムーズになり、円滑な承継につながります。

養子縁組をすると、原則として養子は養親の姓を名乗ることになります。そのため、例えば会社名や屋号に養親の姓が使用されている場合は、後継者でもある養子も同じ姓になるため取引先などは「事業がこれまで通り安定して継続していくのだな」という印象を受けやすくなったり、家族の一員として事業を引き継いだ「正当な後継者」というイメージを発信しやすくなり、信頼感の醸成につながることが期待できます。

有名なところでは、軽自動車で有名なスズキ株式会社の中興の祖である故 鈴木修氏も鈴木家に婿養子となっています。旧姓は松田だったそうです。

 

 

養子縁組の見落としてはならない6つの注意点とは

養子縁組はメリットがある一方、注意点も多く存在します。どのような目的で養子縁組をするにしても、以下の6点には留意が必要です

 

①他の相続人とトラブルになる可能性が増える

養子縁組によって他の法定相続人の相続分(取り分)が減少するため、他の相続人から強い反発を招き、遺産分割協議が紛糾したり、訴訟に発展したりする可能性があります。

「財産目当ての養子縁組だ」といった疑念や感情的な対立が生じやすく、親族関係が悪化する可能性があります。

 

②遺留分の発生による制約が生じる

養子も実子と同様に遺留分(法律上最低限保障される相続分)を持ちます。被相続人が特定の養子や相続人に多くの財産を残そうとしても、他の養子を含む遺留分権利者の遺留分を侵害することはできません。これは、被相続人の意図通りの遺産分割を完全に実現する上での制約となります。

 

③養子縁組の意思が確実であったか問われる可能性がある

特に相続開始直前の養子縁組や、高齢者との養子縁組の場合、遺産分割を有利に進めるため、あるいは相続税対策のためだけの形式的な養子縁組ではないか(当事者に真の親子関係を築く意思があったのか)が問題視されることがあり、他の相続人から養子縁組の無効を主張される可能性があります。

 

④養子自身の相続関係が複雑になる

普通養子縁組の場合、養子は養親と実親の両方に対して相続権を持つことになります。これにより、養子自身の財産関係や将来の相続が複雑になる可能性があります。例えば養親から相続する財産額を見越して、実親の相続の際に、実のきょうだいから『あなたは養親から財産をもらうのだから』と、法定相続分を主張しないよう求められる、などといったケースです。

 

⑤縁組解消(離縁)が困難である

一度成立した養子縁組を解消するには、当事者間の合意(協議離縁)または裁判所の許可(裁判離縁)が必要です。遺産分割のためだけに安易に養子縁組を行い、後で関係が悪化した場合に、養親は離縁したいのに養子が離縁に反対している場合などは、養子縁組の解消は困難を極めます。簡単に解消できるとは限らないことを覚えておきましょう。

 

⑥税務上考慮する点がある

法定相続人が増えることによる相続税の基礎控除額増加といったメリットがある一方で、孫養子(代襲相続人でない場合)は相続税が2割加算されるなど、税務上の影響も考慮に入れる必要があります。また相続税対策が主目的であると税務署に判断された場合、否認されるリスクもゼロではありません。

 

おわりに

これまで見てきた通り、養子縁組にはメリットもデメリットも多く存在します。

養親と養子、双方がこのメリットとデメリットを確認、理解した上で実行することが大切です。そして、養子縁組を検討する際は、相続や税務に精通した専門家へご相談されることをおすすめします。

 

 

筆者紹介

植野 直孝
福岡相続サポートセンター
上級相続支援コンサルタント

熊本県出身。
2006年に(株)三好不動産に入社。営業・店舗の責任者を経て2014年より相続コーディネート事業に従事。税理士・弁護士・司法書士などの専門家と連携し、お客様の問題解決に向けて日々奔走する。相続相談の他、生命保険・損害保険・投資信託等の金融商品や不動産経営などFPコンサルタントとしても幅広く活躍。年間の相談件数は約300件。
不動産の現場で相続が”争族”になっていくのを目の当たりにした経験から、生前対策の重要性について説く。

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